名前はまだない。(山梨県道志村)

  この活動の名前はまだない。でも人が集まり、材が運び出されて薪となる。

道志村で地元の有志が集まり、間伐材を搬出する活動を訪ねた。
 
久しぶりに道志を訪ねた。
神奈川県の水源域にあたる、山梨県の東端の道志村。何度訪ねても、その山深さと渓谷美に息を吞む。

道志村の中心に位置する温泉施設「道志の湯」には、薪ボイラーが導入されている。隣接する「木の駅どうし」に集まってくる間伐材を薪にして、温泉をあたためているわけだ。
「道志の湯」の他でも、キャンプ場や家庭で使用する薪もストックされる。道志は日本で一番キャンプ場がたくさんある村! 薪の需要は増えてきている。

そこで、山からもっと木材を出してきて、薪に使えるようにしたい!
今回は、道志の若き林業家、(株)リトルトリーの大野航輔さんの、新しい取り組みを聞きつけて訪ねてきたのだった。

 


大野さんの道具は、本場ヨーロッパから取り寄せた本格的なものばかり。そして、ピカピカに手入れされている。
大野さんの道具は、本場ヨーロッパから取り寄せた本格的なものばかり。そして、ピカピカに手入れされている。


その取り組みの内容とは…
プロの木こりが伐倒しても運び出されることのない間伐材など、林地残材となってしまうものを、地元有志メンバーの力で運び出して、有効活用しようというもの。
大野さんの呼びかけに、地元の元気なオジサンたちが集まった。もとい、若手も負けじと集まっている。
みな、決して林業のプロでもなければ山主でもない。ただ、森林資源の豊かな道志で、間伐材を活用して、もっと地元を元気にしたいという意識と行動力を持ったメンバーが集まってきたのだ。
 


有志メンバーの皆さん。手前の後姿が大野さん。
有志メンバーの皆さん。手前の後姿が大野さん。


 

さて今回の作業レポートに移ろう。現場は、軽トラでしか登れない急な林道の上から、見下ろした斜面に伐倒された間伐材が並んでいるところ。
これらを2.4mに玉切りし、林道まで引き上げて、さらに80cmに玉切りして薪にするという作業。引き上げは、スキッダーコーンと呼ばれる障害物回避用のとんがりコーン(笑)を頭に被せた材を、ポータブルウインチで牽引する。
シンプルだが斬新な方法で、自伐林家やボランティアが搬出作業をするときの模範例のような作業システムとなっている。
これらの作業方法や機材には、大野さんが林業先進地のオーストリアで学んできた内容も取り入れられている。

さあ、上げる、上げる。
上げたらコーンを下に返して、次を上げる。
上でも下でも、玉切りのチェンソーが響く。
森の中で作業するのは、気持ちがいい。参加者のみなさんも実は、森の中の作業が好きだから、こうして集まっているに違いない。
材を引き上げる経路の見極めなど、ちょっと頭脳プレーも入ってくるところも面白い。

 


作業前の現場風景。間伐材が転がっている。
作業前の現場風景。間伐材が転がっている。

黄色いのがスキッダーコーン。これを付けて、ポータブルウインチで引っ張りあげてくる。
黄色いのがスキッダーコーン。これを付けて、ポータブルウインチで引っ張りあげてくる。

おまえも写れと、私の作業中の写真も大野さんがとってくれていた。
おまえも写れと、私の作業中の写真も大野さんがとってくれていた。


作業の合間には、男たちの世間話も。
若手で、道志に新たに移住してきたばかりのSさんには、地元のみなさんとあれこれお話しをする良い機会になっているようだ。昔から、地域の共同作業でこうやってコミュニケーションを取るのは、あたりまえの日常だったんだなー。
毎週水曜日を活動日にきめて、林内に残された間伐材を運び出す作業。地域エネルギーの有効利用やら、環境問題やら、意義のある作業には違いないが…なにより、森の中での仕事が好きだから、みんなこうして集まってくる。
まだこの活動の名前はない。でも、人々が汗を流し、林地残材が少しずつ運び出されて薪となる。

 


本日のメンバー。しゃがんでいる中央が、大野さん。
本日のメンバー。しゃがんでいる中央が、大野さん。

本日の成果の一部。
本日の成果の一部。

作業後。だいぶ残材が片付いた!
作業後。だいぶ残材が片付いた!

作業場のすぐ近くで、ワナにかかった雄シカがいた。ふもとの猟師さんに知らせなければ!
作業場のすぐ近くで、ワナにかかった雄シカがいた。ふもとの猟師さんに知らせなければ!

作業の後、温泉の前に、ひとっ走りするのが私の楽しみ。
作業の後、温泉の前に、ひとっ走りするのが私の楽しみ。


作業後、薪の供給先である「道志の湯」に立ち寄って汗を流す。の前に、私は自転車乗りなので、裏山をマウンテンバイクで1本、駆け抜けるのがお楽しみ。山でのボランティア作業をして、趣味の自転車も楽しんで、温泉を満喫して帰るという休日のスタイル、いかが?
自転車で走ったら、また鹿に出くわした。残雪で泥だらけになって下山して、いよいよ「道志の湯」へ。つるつるな泉質で、ぬるめの露天風呂にゆっくり漬かり、1日の疲れを癒した。今日の自分たちと同じように、誰かに育てられ、伐られ、誰かが運び出してくれた薪が、いまこのお湯を温めているのだ。感謝の気持ちとともに心からあたたかくなり、長湯してしまった。
(文・写真:大久保)

さて、「地エネの湯」の定例フィールド活動として、こちら道志に今後たびたびおじゃまさせていただくこととします!
他にも、いろんな作業方法で搬出する様子を、今後もレポートしますね。

道志の湯

業態 日帰り入浴
所在地 山梨県同志村
地エネ種類 logo_02_biomass 木質バイオマス
道志渓谷の清流沿いに沸く、癒しの温泉。キャンプ場がたくさん、登山や釣りも盛んな道志渓谷のアクティビティの後に立ち寄る人で賑わう温泉は、最新の薪ボイラーで加温されています。